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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1188号 判決 1950年3月24日

被告人

松下武雄

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中、百弐拾日を本刑に算入する。

理由

弁護人由布喜久雄の控訴趣意第一点について。

(イ)  原審第二回公判調書によれば裁判官が検察官に対し、証拠の提出を求めたので、検察官は証拠書類として、参考人の各供述調書、盜難始末書、領置調書、及び司法警察員、検察官に対する被告人の各供述調書、前科調書等(一)乃至(一九)の書類の取調を請求し、その立証趣旨を述べた後、裁判官から弁護人に対し検察官の証拠調の請求についての意見を求めたのに対し、弁護人は右書類を証拠とすることに同意し、証拠調には異議ないと述べた旨の記載があつて、被告人自身がこれに同意したか否かの記載がないことは所論のとおりである。

しかし、刑事訴訟法第三百二十六条に所謂被告人とは被告人の外、その包括的代理人としての弁護人をも包含するものと解するのを相当とする。すなわち弁護人は被告人の意思に反しない限り包括的代理権を有するものであるから弁護人が書面又は供述を証拠とすることに同意した場合には、被告人が即時、右同意を取り消したような場合は格別、そうでない限り、被告人が同意したのと同様の効果を生ずるものと解すべきである。

(ロ)  同第二点について。

原判決は、法令適用の箇所において、「犯情の最も重い」と「の罪の刑」との間に空白があつて、併合罪中のいずれの罪を特定したのか明らかでないかしがあること又刑法第十四条を摘示していないことは所論のとおりであつてその擬律のずさんであることはいなめない。

しかし、旧刑事訴訟法第三百六十条にいわゆる法令の適用とは、具体的犯罪構成事実に適用すべき実体的法規をいうのであつて、犯罪事実に適用すべき実体法規以前の法規は現実にこれを適用したことが認められる限り、特にこれを法律適用の箇所に示さなくても法令の適用をしなかつたということはできない。

原判決によると、併合罪の関係にある数個の犯罪につき併合罪の加重をするに際し犯情の最も重い罪を特定していない不備はあるが刑法第四十五条、第四十七条、第十条を適用していることが明白であり、又、原判決が恐喝十個及び窃盜二個の各罪の刑に累犯の加重をし、更に、併合罪の加重をしたのにかかわらず宣告刑が懲役十月である点に鑑みると、原審は刑法第十四条を明示してはいないが、同条を適用してその制限に従い懲役二十年以下の範囲内で量刑処断している趣旨であることが認められる。されば原判決には所論のような違法の点なく論旨は理由がない。

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